薔薇の騎士
自分の最も愛する人を他の誰かに譲る。
これはとても切なくそれでいて高尚な魂を持つ人間にしか決して成し得ないことだ。
オペラ「薔薇の騎士」は、リヒャルト・シュトラウスの作品で、昨日わたしはオペラバスティーユで初めて全幕をみた。
美しい貴婦人が、愛する17歳の青年を、若くて美しい少女に譲る話であるが、第一幕での貴婦人と青年の、本当に楽しそうに愛し合っている様子を見ているが故に、第三幕で愛する青年を遠ざけて、少女と結びついた様子を見守る貴婦人の切なさが引き立つ。
自分の愛する人と共に歩まない人生を自ら選ぶ
なぜならそれが若い青年にとって正しい道であるから
大人だ。
どんなに愛し合っていても、それが自分と相手のために正しいものではないと思った時、この貴婦人”マリアテレーズ”は、青年”オクタヴィアン”を手放した。自分が彼に比べて年をとっていることを認めなければいけない。どれだけ美しく魅力的だからといって既婚であることを認めなければいけない。大人として、そして気高い身分の誇りとして。
彼に銀の薔薇を渡してー
その銀の薔薇が貴婦人から青年の元へ、そして青年から少女の元へ
美しく輝く銀の薔薇は最後青年と少女の手の中で赤い薔薇に変わる。
そこには若く艶やかな新たな愛がある。
ーごらん、若い恋人たちだー
ーええ。ええ。そうね
様々な愛の形がある。
相手を恋い焦がれてやまないものも、傷つき傷つけてしまうものも、遠く離れていても穏やかな海のようにしんとした深い愛で満たされているものも
わたしは彼を愛したことを忘れない。
彼との物語を忘れない。